ルルティエは見た(ウコハク?)

※ルルティエ視点のウコハク妄想です。

 

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「自分は嫌だ。絶対」
 
 聞こえてきた声に、ルルティエはふと足を止めた。
 ハクの私室からである。ちょうど彼女は、出来立ての『ルル』とお茶を盆に載せ、皆が集まる部屋へと向かう途中だった。そのついでに、なにやら書き物をしているらしいハクにも休憩の誘いをしようと、この部屋の前へとやって来たのであったが……。
(誰か、いらっしゃっているのかしら?)
 ルルティエはピクリと耳を動かすと、そっと部屋の障子へと近づける。すると、微かな声が漏れ聞こえてきた。
 
「固い事言うな……アンちゃんとの仲……」
「嫌なものは……だって、……いし」
(ウコン様だわ!?)
 その声にピンッと尻尾が反応する。思わず腕の中の茶器を落としそうになって、慌てて持ち直した。幸い、音は最小限で済んだようで、部屋の中までは届いていないようだった。
 ルルティエは、書冊を読むのが好きだった。とりわけ、男同士の熱い友情の物語を。否。友情以上の関係を書き連ねた本を、自らの行李の中に忍ばせてある。
(何をお話されているのかしら)
 クジュウリの町でウコンと、そしてハクと出会い、帝都までの道程を共に過ごした。初めて会った者同士だったが、自然にウコン一派の中に溶け込んでいたハク。その彼を親しげに『アンちゃん』と呼んだウコンに、ルルティエの妄想は一気に高まっていったのだった。
 そんな二人が、なにやらハクの部屋で密談をしているらしい。ルルティエが気になるのも仕方ないことだった。
 
「痛くなんてネェさ。まぁ、最初は痛いかもしれねぇが……」
「お前はする側だから……コト言える、おいっヤメんかっ」
(……っ!?)
 ガタンと何かが倒れる音がして、なにやら小競り合いのような、もみ合う音が聞こえた。
「ヤダ、ヤダっ……んんっ、痛いって!」
「大げさだねぇ」
(~~~っ)
 ルルティエの妄想では、既に二人は服を纏ってはいなかった。そして、折り重なるように体が触れ合っている。
「は……ぐぅっ、い……」
「すぐに気持ちよくなるサ。ほら、ちゃんと息をしなヨ」
 幾分と美化されたハクとウコンの姿絵が脳裏に過ぎる。痛がるハクの頭を撫で、耳元で囁くウコン。そんな構図が彼女の中で繰り広げられている。
(まさか、そんなこと……っ)
 ルルティエの限界はここまでだった。膝から力が抜け、ペタリと部屋の前で座り込んでしまった。
「だ、誰かいるのかっ。助けてくれっ」
 外の気配に気付いたのか、部屋の中から助けを求めるハクの声。その声に誘われるがままに、ルルティエは障子を開いた。
「ハク、さま……?」
「ルルティエかッ。コイツをどけてくれんかっ。痛、いって!」
「何言ってやがる。ルルティエ様。俺はただ疲れた足を揉んでやってるだけなんだ。アンちゃんの言葉に耳を貸しちゃいけねぇぜ」
 そこには、ハクの足の裏を楽しそうに指で押しているウコンの姿があった。
「足を……」
 気の抜けたように、呆然とその光景を見ていたルルティエは、自分が何をしに此処に来たのかをすっかり忘れる所だった。
「あ、あのっ」
 その声に、二人が一斉にルルティエの方を向く。二人の視線に気が動転しながらも、ルルティエは口を開いた。
 
「お、お疲れでしたら、お茶にしません……か?」
 
 少し冷めかけたお茶と菓子は、何とか無事にルルティエの持つ盆の中に納まっている。

 

 ここに居た事を誤魔化すかのように、そして妄想のお詫びに、ルルティエは二人にお茶と菓子を振る舞うのだった。